敷金が返ってこないとき、退去費用の明細はどう読む?【久松亮一の法律ブログ】

弁護士の久松亮一です。引っ越しが終わり、新しい部屋での生活が落ち着いた頃、以前住んでいた物件の管理会社から精算書が届く。敷金が戻ると思って開いたら、壁紙の張り替えや清掃費用が差し引かれ、返金額がほとんど残っていなかった。そんなとき、どこを確認すればよいのでしょうか。

金額が高いと感じても、その印象だけでは話し合いを進めにくいものです。一方、請求書に記載されているからといって、すべてが当然に借主の負担になるわけでもありません。

今回は、退去費用の明細を手元に置いた場面から、契約書や写真と照らし合わせながら確認する方法を説明します。

まず、何が差し引かれているのかを分けて見ます

精算書が届くと、最初に返金額へ目が向くと思います。しかし、敷金が戻らない理由を知るには、差し引かれた項目を一つずつ見る必要があります。

未払いの家賃、退去時の清掃、壁紙の交換、設備の修理など、記載されている費用は、それぞれ性質が異なります。家賃の精算であれば支払い済みの記録を確認しますし、修理費であれば、どの箇所にどのような損傷があったのかが問題になります。

修繕費一式とだけ書かれている場合には、対象となる場所や作業内容が分かりません。その状態で妥当かどうかを判断するのは難しいため、詳しい内訳と、借主の負担とした理由について説明を求めましょう。

敷金の精算と追加の請求が一枚にまとめられていることもあります。預けた金額、差し引く費用、返金額または追加支払額を区別すると、何について確認する必要があるのかが見えてきます。

傷があることと、費用を負担することは別に考えます

明細に床の傷や壁紙の汚れが記載されていても、それだけで借主の負担が決まるわけではありません。確認したいのは、いつ、どのように生じたものなのかです。

入居前からあった傷なのか、普段の生活で自然に生じた変化なのか、それとも不注意などによってつけてしまった損傷なのか。同じ場所の傷でも、原因によって考え方が変わります。

原状回復は、借りた部屋を新品の状態にするという意味ではありません。通常の使用による傷みや、時間の経過に伴う変化は、原則として借主が費用を負担する対象にはなりません。ただし、費用負担についての特約がある場合には、その内容や有効性も確認する必要があります。

例えば、壁紙が変色しているとしても、日差しによるものと、たばこのヤニによるものでは事情が異なります。見た目だけで判断せず、汚れや傷みの原因まで確かめることが大切です。

張り替える範囲と、借主に請求する範囲を確認します

傷をつけたことに心当たりがある場合も、明細の確認は必要です。修理が必要なことと、その工事費用のすべてを借主が負担することは、同じではないからです。

壁の一部分に傷があるのに、部屋全体の壁紙交換が記載されている場合には、なぜその範囲の工事が必要なのかを確認します。工事として張り替える範囲と、借主に負担を求める範囲がどう整理されているのかも、説明してもらうとよいでしょう。

また、壁紙などでは、張り替えから経過した年数を踏まえて負担額を考えることがあります。以前から使われていたものを交換するのに、新品へ交換する費用がそのまま請求されていないかという視点です。

もっとも、すべての設備に同じ計算を当てはめられるわけではありません。長く住んでいたから一切払わなくてよい、と決めつけることも避けたいところです。対象となるもの、損傷の原因、工事の範囲、金額の計算を分けて確認しましょう。

清掃費用は、契約書の記載と照らし合わせます

退去前に掃除をしたのに、ハウスクリーニング代を請求された。このような場合には、清掃した事実に加えて、契約でどのような取り決めをしていたかも確認します。

賃貸借契約書には、退去時に一定の清掃費用を借主が負担する旨の特約が設けられていることがあります。部屋をきれいに使っていたから必ず請求を断れる、とは限りません。

一方で、契約書に書かれていれば、どのような内容でも有効になるわけではありません。負担する内容や範囲が明確か、契約時にどう説明されていたか、費用が妥当かなど、個別の確認が必要です。

室内清掃に加えてエアコン清掃などが別に請求されている場合は、それぞれが契約上どのように扱われているかも見てみましょう。明細と契約書を並べることで、記載のある費用と、説明を求めたい費用を整理しやすくなります。

写真は、請求された箇所と対応させると役立ちます

入居時や退去時の写真が残っている場合には、明細に記載された場所と照らし合わせて確認します。

例えば、床の傷について請求されているなら、その場所が入居時の写真にも写っていないか探します。退去時の写真があれば、傷の大きさや周囲の状態を確認する材料になります。

写真を送る際には、部屋全体の画像を大量に並べるより、どの請求項目について、何を確認してほしいのかを添えると伝わりやすくなります。入居時のチェックシートや、修理について管理会社へ連絡したメールなども、経緯を説明する手がかりになります。

写真が見つからなくても、すぐに確認を諦める必要はありません。管理会社側の記録や、請求の根拠となる写真について説明を求める方法もあります。まずは双方がどの資料をもとに話しているのかをそろえることが大切です。

退去時に署名した書類も、内容を読み返します

立ち会いの際に書類へ署名した場合には、その控えも確認しましょう。傷があることを確認したのか、費用の負担まで了承したのか、金額も含めて合意したのかによって、検討すべきことが変わります。

署名したから、もう何も言えないと考える前に、書類に何が書かれているかを読み返してください。反対に、内容を確認せず、署名には意味がないと判断することも適切ではありません。

まだ署名前であれば、分からない項目はその場で質問し、何について確認する書類なのかを理解してから対応しましょう。引っ越し当日は慌ただしくなりがちですが、控えを受け取って保管しておくことも大切です。

問い合わせでは、確認したい項目を具体的に伝えます

管理会社へ連絡するときは、全体の金額に納得できないという話に加えて、どの項目について説明が必要なのかを伝えると、話を進めやすくなります。

壁紙の張り替えなら対象となる壁と面積、清掃費なら契約上の根拠など、明細に沿って質問を整理します。電話で説明を受けた場合も、日時や内容をメモしておくと、その後の確認に役立ちます。

説明を受けても判断が難しい場合や、話し合いが進まない場合には、契約書、精算書、写真、やり取りの記録をまとめ、消費生活センターや弁護士に相談する方法があります。

敷金の精算で大切なのは、請求を一括して受け入れるか、すべて断るかを急いで決めることではありません。何の費用で、どのような理由から、自分の負担とされているのか。そのつながりを確認することで、納得できる部分と、さらに説明が必要な部分を分けて考えられるようになります。

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