【弁護士・久松 亮一】ドラマの弁護士と、本当の弁護士の違いとは?

弁護士の久松亮一です。このシリーズも、ひとまず今回で一区切り。最後は少し趣を変えて、職業そのものの話をしてみたいと思います。弁護士とは実際どんな仕事なのか、とよく聞かれるので、世の中のイメージと現場の実像とのあいだにあるギャップを、ゆるくお話しします。

異議あり、はそんなに言わない

まず、多くの方が思い浮かべるのが、法廷で立ち上がり、異議あり、と声を張り上げる場面ではないでしょうか。緊迫した法廷で言葉の応酬が続き、最後に鮮やかな一言で形勢が逆転する。ドラマの弁護士といえば、だいたいこういう姿で描かれます。

ところが、実務でこういう場面に出くわすことは、そうそうありません。そもそも日本の民事の手続きは、口頭での派手なやり取りよりも、書面のやり取りが中心になっています。主張も証拠も、あらかじめ文書にまとめて裁判所に提出し、それを互いに読み込んでいく。法廷でのやり取りは、その確認作業のような色合いが濃いのです。ですから、ドラマのような大立ち回りを期待して傍聴に来ると、思いのほか静かで拍子抜けするかもしれません。

仕事の大半は、交渉と書面と相談

では普段、弁護士は何に時間を使っているのか。正直にお話しすると、その多くは、交渉と、書面づくりと、相談を受けることに費やされています。

たとえば相手方との交渉。これは法廷の外で行われることがほとんどで、どう折り合いをつけるか、どの条件なら双方が受け入れられるか、を地道に探っていく作業です。派手さはありませんが、実際にはここで決着がつく案件がとても多い。裁判はあくまで最後の手段で、その手前で話をまとめられれば、依頼者の負担はずっと軽くなります。

書面づくりも大きな比重を占めます。こちらの言い分を、感情的にならず、筋道立てて文章に落とし込む。関係する資料を一つひとつ読み込んで、事実を整理する。机に向かっている時間は、外から見えるよりはるかに長いものです。地味ではありますが、この積み重ねが結果を左右します。

思った以上に、人の話を聞いている

意外に思われるかもしれませんが、依頼者の方と向き合って話す時間も、相当なものです。

法律の正解を一方的に告げる仕事だと思われがちですが、実際はその逆に近い。まず、その人が何に困っていて、何を一番に守りたいのかを、時間をかけて聞き取るところから始まります。同じトラブルでも、お金を最優先にしたい人もいれば、とにかく早く穏便に終わらせたい人、相手にきちんと謝ってほしい人もいる。望むものが違えば、目指すべき着地点も変わってきます。

ですから、こちらが勝手に正解を決めて押しつけることはできません。本人の話を丁寧にほどいて、選択肢を一緒に並べ、最終的にどうするかはご本人に選んでもらう。そういう、地味だけれど欠かせないやり取りの上に、弁護士の仕事は成り立っています。

付け加えると、話を聞く時間が長いのには、もうひとつ理由があります。人は、いざ困りごとを抱えると、何が本当の問題なのか自分でも分からなくなることがよくあるからです。最初に相談されたことと、よくよく聞いてみて見えてくる本当の悩みが、別だった、というのも珍しくありません。表に出てきた一点だけを見て急いで動くと、肝心なところを見落としてしまう。だからこそ、遠回りに思えても、まずじっくり耳を傾けることを大事にしています。

守備範囲は、案外ひとそれぞれ

もうひとつ、よくある誤解があります。弁護士なら、どんな法律問題でも同じように何でも対応できる、というイメージです。

実際には、医者に内科や外科があるように、弁護士にもそれぞれ力を入れている分野があります。日常的に扱っている領域もあれば、あまり手がけてこなかった領域もある。だからこそ、相談するときに、自分の困りごとがその弁護士の得意とする分野と重なっているか、というのは、地味だけれど大切な視点です。もし畑違いであっても、ふさわしい相手を紹介してもらえることが多いので、遠慮なく聞いてみてください。

派手ではないけれど、暮らしを支える仕事

こうして並べてみると、弁護士の仕事は、世間のイメージほど劇的ではないことが伝わるかと思います。声を張り上げる場面より、机に向かって資料と格闘する時間のほうがずっと長い。鮮やかな逆転劇より、こじれる前に静かに収める段取りのほうが、ずっと価値がある。

派手なヒーローというより、誰かの暮らしを後ろからそっと支える、裏方に近い仕事。私は、そういうものだと思いながら、この仕事を続けています。困っている人の隣に座って、絡まった糸を一緒にほどいていく。その手伝いができたときが、いちばんやりがいを感じる瞬間です。

このブログも、その延長のつもりで書いてきました。法律の話を少しでも身近に感じてもらえたら、そして何か困ったとき、抱え込む前に、気軽に専門家の扉を叩いてもらえたら。書き手としては、それがいちばんの願いです。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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