【弁護士・久松亮一】親が亡くなったあとの手続き、何から手をつければ…弁護士が引き受けてくれる相続の仕事範囲はどこまで?
親が亡くなると、深い悲しみの中で、思いがけずたくさんの手続きに向き合うことになります。役所への届け出から始まり、預貯金や不動産、保険など、次々と対応すべきことが出てきて、何から手をつければいいのか分からなくなってしまう方は少なくありません。相続という言葉を聞くと、なんとなく弁護士に頼むもの、あるいは資産家の家の話、というイメージを持つ方もいますが、実際にはどんな家庭にも関わってくる、とても身近な出来事です。今回は、その全体像の入り口をゆるく整理してみます。
相続には期限のあるものがある
まず知っておいてほしいのは、相続に関わる手続きの中には、期限が決まっているものがある、という点です。ゆっくり落ち着いてから、と思っているうちに、大事な期間が過ぎてしまうことがあります。
たとえば、亡くなった方に借金が多く、相続したくないという場合には、相続放棄という方法があります。これは、自分のために相続が始まったことを知った時から、原則として三か月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。また、相続税の申告と納付が必要になる場合には、亡くなったことを知った日の翌日から十か月以内という期限があります。すべての家庭で相続税がかかるわけではありませんが、対象になる場合にはこの期間を意識しておくことが大切です。
2024年から相続登記が義務になった
もう一つ、近年の大きな変化として覚えておきたいのが、不動産の相続登記です。亡くなった方が土地や建物を持っていた場合、その名義を相続人へ変更する手続きを相続登記といいます。
これまで相続登記をするかどうかは相続人の判断に任されていましたが、2024年4月から、この登記が義務になりました。相続によって不動産を取得したことを知った日から一定の期間内に登記の申請をしないと、正当な理由がないのに怠った場合には過料の対象になることがあります。放置された名義のままの土地が全国で増え、社会的な問題になっていた背景があります。実家の名義がどうなっているか、この機会に確認しておくと安心です。
遺産の分け方は相続人全員で決める
亡くなった方が遺言を残していない場合、誰が何をどれだけ受け取るかは、相続人全員で話し合って決めることになります。これを遺産分割協議といいます。一人でも欠けたまま進めることはできず、全員の合意が必要になる点が特徴です。
この話し合いには、以前はとくに期限がありませんでした。ただ、時間が経つほど記憶も資料もあいまいになり、相続人の世代交代が進んで関係者が増え、まとまりにくくなっていきます。こうした事情もあり、法律上も、長い年月が過ぎたあとの分割については扱いが変わる仕組みが設けられました。話し合えるうちに早めに向き合っておくことには、実際的な意味があります。
弁護士は揉めてからとはかぎらない
では、これらをすべて弁護士に頼むのかというと、そうではありません。相続に関わる専門家には、税金のことを扱う税理士、不動産の登記を扱う司法書士など、それぞれ得意な分野があります。弁護士は、相続人どうしの意見が対立したときや、遺産の分け方でもめてしまったときに、法律の立場から解決を助ける役割を担うことが多い専門家です。
ここで一つお伝えしておきたいのは、弁護士に相談するのは、すでに大げんかになってから、とはかぎらないということです。まだ具体的にもめてはいないけれど、このまま進めて大丈夫だろうか、話し合いの見通しを知っておきたい、という段階でも、法律のうえでどんな選択肢があるのかを整理しておくことはできます。もめてしまう前に全体像を知っておくことが、結果的に、家族の関係を穏やかに保つことにつながる場合もあります。
大切なのは早めに全体像をつかむこと
相続は、専門的で複雑そうに見えて、多くの人がいつか必ず通る道でもあります。何から手をつければいいのか分からないという状態は、裏を返せば、まだ全体像が見えていないというだけのことです。どんな手続きがあり、どこに期限があり、誰が関わる話なのか。そのおおまかな地図を早い段階で持っておくことが、慌てず落ち着いて向き合うための第一歩になります。悲しみのただ中で無理に急ぐ必要はありませんが、期限のあるものだけは頭の片隅に置いておくと、後の負担がずいぶん軽くなるはずです。



コメントを送信