口約束のお金の貸し借りはもめやすい|身近な金銭トラブル【久松 亮一】

弁護士の久松亮一です。今回は、ぐっと身近なところに降りてきて、お金の貸し借りの話をしようと思います。友達にお金を貸すんだけど借用書って必要なんだろうか、という、誰の身にも起こりうる場面です。

口約束でも、貸し借りは成立する

まず、いちばん気になるところからお答えします。法律のうえでは、口約束だけでもお金の貸し借りそのものは成立します。契約書がないから無効だ、ということは、基本的にありません。

つまり、貸した・借りたという約束があって、実際にお金を渡していれば、紙が一枚もなくても、返してもらう約束は有効に存在しているわけです。これは少し意外に思われるかもしれません。書面がなければ法律上は何の意味もないのではないか、と考えている方が、案外多いからです。

では、なぜわざわざ借用書を勧めるのか。ここが今日の本題です。

問題になるのは、証明できるかどうか

口約束でも有効、と聞くと安心してしまいそうですが、落とし穴はそのあとにあります。有効であることと、それを後から証明できることは、別の話だからです。

人の記憶は驚くほどあてになりません。貸した側は30万円を半年後に返す約束で渡したと思っていても、借りた側は20万円もらっただけで、あれはお祝いのつもりだったと受け取っているかもしれない。悪気があるかどうかにかかわらず、時間が経つと、二人の記憶は少しずつずれていきます。

そして、いざ返してほしい側と、もらっていないと主張する側で水掛け論になったとき、頼りになるのは記憶ではなく、形に残ったものです。やり取りを示す紙が一枚あるかどうかで、状況はまるで変わってきます。借用書というのは、相手を疑うための道具というより、未来のすれ違いから二人を守るための保険のようなものなのです。

お金の話は、仲がいいほど崩れやすい

ここで少し、現実的な話をしておきます。お金の貸し借りでこじれるのは、赤の他人どうしより、むしろ仲のいい間柄であることが多いものです。

親しいからこそ、いちいち紙にするなんて水くさいと感じ、口約束で済ませてしまう。親しいからこそ、催促したら関係が壊れそうで言い出せず、回収が後回しになる。そうやって曖昧なまま時間が過ぎ、最後はお金も友情も両方失ってしまう。残念ながら、これはよくある展開です。

だからこそ、関係を大切にしたいなら、最初にきちんと形にしておく。これは冷たいことではなく、むしろ相手との関係を守るための配慮だと、私は思っています。

借用書には、何を書けばいいのか

では、いざ借用書を作るとして、何を書いておけばいいのか。難しく考える必要はありません。

押さえておきたいのは、誰が誰に貸したのか、金額はいくらか、いつ渡したのか、そしていつまでに、どんな方法で返すのか。この四点がはっきりしていれば、書面としての役目はおおむね果たせます。利息をつける約束をするなら、その点もあわせて書いておくとよいでしょう。最後に作成した日付を入れて、お互いが署名する。これだけで、ぐっと安心できる一枚になります。

体裁はそれほど神経質にならなくて構いません。決まった様式があるわけではないので、手書きでも問題ありません。大切なのは見た目の立派さではなく、後から読んで誰が読んでも同じ意味に取れる、ということです。逆に、日付が抜けていたり、金額の書き方が曖昧だったりすると、せっかく作っても肝心なところで役に立たないことがあります。書き終えたら、第三者が読んでも誤解しようがないか、一度声に出して読み返してみるくらいでちょうどいいと思います。

なお、相手に書いてもらう一筆だけでなく、銀行振込で渡してお金の流れを記録に残しておく、というのも有効な方法です。現金を手渡しすると、渡したという事実そのものが争いの種になりがちですが、振込であれば動いたお金の記録が自然と残ります。

構えすぎなくてもいい場面

もっとも、何でもかんでも書面にしなければいけない、というわけではありません。

ごく少額で、返ってこなくても気にならない程度の額なら、そこまで構える必要はないと思います。友人との数千円のやり取りに、いちいち借用書を交わしていては、かえって関係がぎくしゃくしてしまいます。要は、金額の大きさと、後で揉めたときの痛手の重さに見合った備えをすればいい、ということです。

目安として、もし返してもらえなかったら生活や気持ちに響くな、と感じる金額であれば、一筆もらっておく。それくらいの感覚で十分でしょう。

返ってこないと感じたら、早めに

最後に、ひとつ知っておいてほしいことがあります。貸したお金を返してもらう権利にも、実は期限があります。あまりに長く放置していると、法律上、請求できなくなってしまうことがあるのです。

ですから、どうも雲行きが怪しいな、最近は連絡も取りづらいな、と感じ始めたら、関係が完全に切れてしまう前に、早めに動くことをおすすめします。具体的にどう請求すればいいのか、まだ間に合うのか。そのあたりがご自身で判断しづらいときこそ、一度専門家に状況を整理してもらうと、次の一手が見えてきます。お金の話はどうしても切り出しにくいものですが、抱え込んで時間を空けるほど、選べる道は狭くなっていきます。

次回は、ドラマでよく見るあの郵便、内容証明郵便の正体について、ゆるくほどいてみます。

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